まるもり仕事図鑑vol.11  グリーンツーリズム

昨年度、丸森CULASTAはリブランディングを行い、「CULASTA」という名称に【CULTURE AND STARTUP】(カルチャー・アンド・スタートアップ)という意味を込めて再定義しました。今後は、地域の文化や資源を活用して新たな事業や商品アイデアを生み出す起業家を支援することを目的に、イベントやセミナーの企画・運営に取り組んでいく予定です。
「まるもり仕事図鑑」では、こうした動きと連動しながら、町の資源やカルチャーに光を当て、ビジネスの種となり得る魅力をご紹介していきます。

【お話を聴いた方】
里山体験時間宿&スイス家庭料理~ヒュッテ・モモ~
オーナー 早川真理さん

大学卒業後、八ヶ岳中央農業実践大学校にて学んだことで知った海外農業研修制度で、スイスに留学。主に施設野菜栽培を営む農家に滞在し、ヨーロッパのグリーン・ツーリズムに触れる。帰国後は観光牧場や出版社での勤務を経て2006年より丸森町のグリーン・ツーリズムに携わる。2018年、起業型地域おこし協力隊としてヒュッテ・モモをオープン。

「水とみどりのかがやく町」という名の通り豊かな自然を有する丸森町は、東北の中でも先駆けてグリーン・ツーリズムの推進に取り組んできました。グリーン・ツーリズムは、フランスやドイツ・スイスなどのヨーロッパ諸国において、人々が長期休暇を農村で過ごす文化が発祥と言われています。近年、日本ではオーバーツーリズムの問題が取り沙汰されていますが、1970年代のヨーロッパでもリゾート地における交通渋滞や過密、景観破壊などが大きな問題となっていました。その反動で静かな農村地帯で過ごしたいと思う人たちが現れるようになり、農家民宿を拠点に地域をふらっと散歩してみたり、農産物の収穫を体験したり、地域の人たちと交流したりと、暮らすように余暇を楽しむスタイルが広がっていきました。

丸森町では「丸森型グリーン・ツーリズム」の一環として、2000年度に「不動尊クラインガルテン」、2005年度に「筆甫クラインガルテン」が開設されました。これは、150㎡の畑とキッチン・バス・トイレ付きの休息小屋を年間契約で利用できる滞在型の市民農園です。東北では初の試みだったこともあり、オープン直後から田舎暮らしに関心のある都市部の人たちが訪れ、畑づくりや地域イベントへの参加を通じて、地元との交流が活発に行われるようになりました。入居者の中から実際に移住する人も現れ、この取り組みは一定の成果をあげました。こうした動きを受けて、小・中学校の農泊体験などを誘致することで、農業体験を観光の目玉として育てていく構想もありました。しかし、町内に宿泊施設が少ないという課題があり、その実現には大きなハードルがあったのです。

では、どのようにしてグリーン・ツーリズムを推し進めていくのか。来る日も来る日も、多くの話し合いが重ねられました。そして早川さんたちがたどり着いたのが、農業に限定せず、町にあるさまざまな体験コンテンツと個人旅行を組み合わせて提案していくという、丸森町らしいグリーン・ツーリズムのかたちでした。その取り組みの一環として、観光案内所のWEBサイトには「まるもり 水とみどりの百貨店」というコンセプトページが開設されました。町内には、誰もが驚くような大規模な観光地こそないものの、四季折々の風景や歴史ある名所、直売所、手仕事体験など、小さくても”本物“の魅力がまるで百貨店のように豊富に揃っている──そんな町の特性を伝える内容です。
当時はSNSが今ほど普及していない時代でしたが、いち早くブログを活用して情報発信を行い、町のイベントやニュースを頻繁に紹介していました。それを見たメディアからの取材も多く、丸森町の多彩な魅力が次第に広く知られるようになっていったのです。

そもそもグリーン・ツーリズムの「グリーン」には、「環境に負荷をかけない観光」という意味が込められているそうです。旅行者がそれぞれ分散して地域を訪れ、その土地にある自然や歴史的な建物を大切にしながら楽しみ、地域の人々とふれあい、静かに休息の時間を過ごす──そうした旅のあり方こそが、グリーン・ツーリズムの本質なのだと思います。
そう考えると、丸森町はまさにそのような旅にぴったりの場所と言えるのではないでしょうか。

現在早川さんは、自身の宿を経営しながら里山歩きや収穫体験・手仕事体験など、お客様に合わせた丸森町の楽しみ方を提案し、人と人を繋げています。観光地をチェックポイントのように次々と巡る旅ではなく、地域に入り込んで、じっくりと時間と空間を味わう──そんな旅のかたちをすすめているそうです。早川さんが大切にしているのは、「優しさ」と「余韻」。体験を通して人の温かさに触れ、そこで生まれる心の穏やかさや、ゆったりと流れる時間が、旅の深い余韻につながっていくのかもしれません。

かくいう私も、丸森町で最初に訪れたのがヒュッテ・モモさんでした。ランチをいただいた際、町の面白いスポットをいろいろ教えていただき、翌月には紹介された里山歩きのツアーに参加。ブナの原生林を訪れました。自然の成り立ちや歴史を語ってくれるガイドさんのおかげで、一見なんでもない風景の中にもたくさんの発見があり、町への興味がぐっと深まっていきました。
なにより心を動かされたのは、町の人のあたたかさです。どこへ行っても笑顔で迎えてくれて、「引っ越しておいで」なんて声をかけられるうちに、気づけば本当に移住してしまっていました。自分自身の体験を振り返っても、丸森町の旅の魅力は、そんな人との出会いや、心の奥に残るやさしさにあるのではないかと感じています。

今回お話をうかがって、私自身もグリーン・ツーリズムへの理解が大きく広がりました。これまで「農業体験」や「民宿」といったイメージが強かったこの言葉には、実はもっと柔軟で、町に暮らす人たちの日常や営みにある“おもてなしの心”そのものが含まれているのだと気づかされたのです。
そして今では、いろんな職業や立場の人が、観光の一部を担う存在になれるのではないかと感じています。たとえば、手芸が好きな人がワークショップを開いたり、育てた野菜や手作りの漬物を紹介したり、地域の昔話を語ったり──そんな何気ない日常のひとこまも、訪れた人にとっては特別な体験になるかもしれません。グリーン・ツーリズムの可能性は、そんな風に広がっているように思います。

<文> 山下久美

丸森クラスタ CULASTA CULTURE AND STARTUP

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