
まるもり仕事図鑑では、町の資源やカルチャーに光を当て、ビジネスの種となり得る魅力をご紹介していきます。
今回ご紹介するのは、「サイクルフェスタ丸森」。バイクも自転車も、風を切って走る“ツーリング”文化が息づく丸森のなかで、今回は自転車で地域を巡るサイクリングに焦点を当て、その魅力と仕事づくりの可能性を伺いました。
【お話を聞いた方】
サイクルフェスタ丸森 実行委員長
げんき鍼灸整骨院 院長
阿部元気さん
2009年、アルバイト先だった整骨院の院長の勧めでロードバイクに出会い、学生時代から大会に出場するなど熱中。丸森に戻り鍼灸整骨院を開業後、町の自転車イベント立ち上げに関わり、第1回からサイクルフェスタ丸森の実行委員長を務める。現在もサイクリストの視点を活かしながら大会を支え、町民との交流を育んでいる。

自転車がつなぐ町と人
今年で11周年を迎える「サイクルフェスタ丸森」。たくさんのサイクリストで賑わうこの一日は、いまや丸森町の秋の風物詩として定着してきました。
始まりは、町長の「丸森町でも自転車イベントをやりたい」というひと言でした。いざ準備を進めようとしたものの、役場内に詳しい人材がおらず、そこでロードバイクに親しんでいた阿部元気さんに声がかかったのです。
阿部さん自身、学生時代にロードバイクと出会って以来すっかり魅了され、「いつか地元・丸森でも大会が開けたら」と夢を描いていました。ちょうど丸森に戻り開業準備を進めていた矢先に声がかかり、かねてからの思いが形になっていきました。こうして始まったサイクルフェスタ。ロードバイクには、走る人を夢中にさせる理由があります。
走るからこそ見える風景
ロードバイクの魅力は、徒歩や車移動では味わえないスピード感と、景色との距離感にあります。風を切って走ると、季節の移ろいや田畑の匂い、川のせせらぎが直接身体に届きます。
自然を味わう楽しさに加え、挑戦する面白さも醍醐味です。長距離や急な坂道、そして曲がりくねった山道――そうした厳しさに向き合うことで、走る喜びはいっそう深まります。
「ロードバイクといえばヨーロッパが本場なんです。向こうは日本のように急な山をまっすぐ道路にできないため、つづら折りの道になる。トップ選手たちがそこを駆け上がっていく姿を、僕らはテレビで見て憧れてきました。だから実際に走っていて、つづら折りが現れると、思わず胸が高鳴るんです。」
丸森町は平地と山間が近くに混ざり合い、アップダウンに富んだ地形を持っています。サイクルフェスタで設定されるロングコースは約75km。距離はやや短めですが、坂道やカーブが多く変化に富んでいて、走り応えがあるのが魅力です。
一方で、気軽に楽しめるショートコースも設定されており、初心者やファミリーでも安心して参加できます。ビギナーから本格派まで、それぞれのペースで走りを満喫できるのも、このイベントの特長です。
丸森ならではのおもてなし
イベント当日の楽しみは走ることだけではありません。
「沿道に人が立っててくれるんですね。山奥で人里離れたような場所でも、家からわざわざ出てきて手を振ってくれるんですよ。僕らがお願いせずとも地域の方が自らやってくれる。それが参加者に伝わって、“こんなに応援してくれるイベントなんて、なかなかないよ”と驚かれるんです。」
そんな温かさは、エイドステーションでも感じられます。
サイクリストが到着すると、町の人が「がんばってきたなぁ、ほら食べろ食べろ」と温かく迎え、地元食材のおふるまいをきっかけに会話が広がっていく――。そんな田舎のおじちゃんおばちゃんとの自然なやりとりが、参加者の心を和ませ、大きな魅力となっています。参加者アンケートでも、「町全体で迎えてくれているようだった」という声が多く寄せられています。

注目されるサイクルツーリズム
こうした経験や町民の温かいおもてなしは、丸森にとっても大きな財産です。一方で、自転車を活かした観光や仕事づくりは、これからのテーマでもあります。
近年注目を集めているのが「サイクルツーリズム」です。自転車で町や地域を巡りながら、その土地ならではの景色や食べ物、人との出会いを楽しむ旅のスタイルで、健康づくりや環境へのやさしさから全国的に人気が高まっています。丸森町でも駅でのレンタサイクル導入や駐輪ラック・給水所の設置が進み、サイクリストを迎えるための環境が少しずつ整ってきています。
こうした基盤があることで、サイクリングに関連した新しい商品やサービスが生まれることがあるかもしれません。実際に全国の小さな町でも、こうした試みは少しずつ形になっています。
たとえば、ローカル鉄道とサイクリングを組み合わせた宿泊型ツアーや、農家民泊と連動して収穫体験や地元料理を楽しめる取り組みなどがあります。また、カフェやベーカリーがサイクリスト向けに駐輪ラックや補給食を整え、「立ち寄りスポット」として口コミで広まっていったケースもあります。大規模な観光事業ではなくても、自転車をきっかけに地域資源が仕事へとつながる例は各地に生まれています。
また、サイクルツーリズムは若者や移住者にとって、新しい関わり方や仕事への入り口となる場合もあります。サイクリングガイドやインストラクター、地域資源をつなぐコーディネーターなど、多様な関わりを通じて、観光客として訪れた人が「ここで働きたい」「この町で暮らしたい」と思うきっかけになることもあるでしょう。
サイクルフェスタで育まれた経験や町民の温かいおもてなし、そして自転車にやさしい環境づくりといった積み重ねを土台にすれば、丸森らしいサイクルツーリズムはこれから少しずつ広がっていくかもしれません。自転車がある風景が当たり前になり、訪れる人も町に暮らす人も心地よく関われる場が育っていく――そんな未来を思い描いています。
「サイクルフェスタ丸森2025」
2025年10月4日(土)開催
https://www.facebook.com/MarumoriCycleProject/
<文>山下 久美