検地とニッチと −寒さやわらぐ地名−
日に日に寒波が強まる中、恋しくなるのはコタツと温かい飲み物。
私は四季のうち、冬が一番好きです。
太平洋側の、晴れながら降る雪の日なんてもう最高です。
しかし、寒すぎて動くのが億劫になったり、乾燥でなんとなく気分が乗らないのは、好きな季節といえど変わりません。
今回は、読むと寒さがやわらぐ(かもしれない)地名をご紹介します。
日向(ひゅうが)
なんだか、ひなたぼっこしたくなる地名です。
かつての検地帳には「ひなた屋敷」とあり、いつしか屋敷が外れて「日向」となったようです。
現在は「ひゅうが」と読みますが、元はひなた(屋敷)だったことから、「ひなた屋敷→ひなた→日向→ひゅうが」と、漢字が当てられたことで次第に読みが変化したと考えられます。
「日向」は、南側の傾斜地に多い地名。実際、小斎の字日向も南向き斜面で、陽を遮る山や林の影響があまりない、日当たり良好の場所です。
ひなたぼっこといえば、縁側。近頃はあまり見れなくなった光景ではありますが、ローカルらしい風景の一つです。
縁側は南向きに作られることが多く、元は平安時代の寝殿造における、建物外周の廊下のような屋外空間が発祥。次第に雨戸などの建具が設けられ、半屋外や屋内空間へと変化し、暮らしの一部となっていきました。
ところで、ちょっと前に北欧の「ヒュッゲ」がブームとなりました。あたたかくて居心地のいい空間や時間などの意味で用いられるため、日本で言えば縁側コミュニケーションがイメージに近い気がします。お茶でも飲んでばい〜の誘惑には勝てません。
ひゅっげとひゅうが。なんとなく似てるような…?
花園(かえん)
パッと見て、小春日和に色とりどりの花が咲き誇る様を思い浮かべた方もいるのでは?
なんとも美しい地名です。残念ながら、住所としてはもうずっと使われていません。
小斎の花園には、伊達政宗に関するエピソードがあります。
初陣の地も近いこの場所で、この地に住むある娘を気に入った政宗公でしたが、娘は病死してしまいます。これを惜しんだ政宗公が霊を祀ったとされる弥陀堂が、現在も残っています。弥陀堂の近くには、政宗公の愛馬を祀った伯楽天王という祠もあります。
全国各地に見られる「花園」地名、これは供華や供花の採取地だった場所に多く見られるようです。仏教における花の存在は大きく、仏具の三具足も香炉、ろうそく、花たてからなるもの。
出陣先や出先で気に入った花や樹を持ち帰ったり、特にお気に入りの芍薬は瑞巌寺本堂の襖にも描かせたほど、花好きだったとされる政宗公。そして、娘が住んでいた小斎の花園は、政宗公が花見をした場所とも伝えられています。
今はすっかり冬景色ですが、春先になると黄色い花をよく見かけますよね。これは、虫に受粉を手伝ってもらう「虫媒花」が、虫が認識しやすい黄色い花を咲かせることで、見つけてもらいやすくなる賢い工夫です。
私は福寿草やロウバイが好きです。今頃彼らは春に向けてパワーを溜めていることでしょう。植物も人も、春までの充電期間を過ごしているかと思うと、冬が一層好きになります。
地名はニッチなもの、と考えています。
ニッチ(niche)とは、もとは隙間、くぼみといった意味で、建築、生物学、ビジネスシーンで少しずつ異なった意味合いで使われています。ニッチな趣味、となると、マニアックや風変わりな…とも言えるでしょうか。
なぜニッチか。
地名とは日常生活で頻繁に使われる、身近な無形文化財です。今は住所表記としてのみかもしれませんが、かつては数平米のわずかな田んぼにも名前がつけられ、きちんと検地されるほど、生活と地名の関係性は強いものでした。地元民の間でしか使わない規模の小ささでありながら、その存在意義は今も昔も変わりません。
ローカルの文化や風習、人や生業、そして地名や付随する伝承。規模が小さく、需要があるものの、地元民からすれば日常的すぎて価値が潜んでいる…
そのニッチさに、スポットライトを当てたいと思うのです。
それが面白く、やりがいがあると感じるのです。そして、ライトに惹かれて、人々の関心がニッチへと向き…花粉のように人から人へ繋がっていく…
前回、今後やりたいことについて、「体験したことや出会いを思い出し、地域のことを一瞬でも考える時間は一種の受け継ぎ方であり…その機会を作る、出会いを贈ることがしたい」としました。
これをひと言でまとめるならば…ローカル・ニッチでしょうか。
軸となるキーワードができたことで…もう少しアクティブに動けそうな気がしております。昨年11月のようなミニイベントを、あたたかくなったらまたやりたいです!
次回、福寿草が咲く頃にこちらの連載も最終回!冬の間、縁側に寝転がりながらもっと考えを深めていこうと思います。ではまた。